日本の政治シーンにおいて、自民党と公明党の連立政権(自公連立)は、四半世紀以上にわたる長期的な枠組みとなっています。しかし、インターネット上や保守層の間では、「安倍政権の時代から、実質的に公明党は自民党にとって不要だったのではないか?」という疑問が根強く囁かれ続けてきました。
2026年2月現在の政治状況を踏まえ、過去の選挙データ、政策決定プロセス、そして最新の政治情勢をプロのファクトチェッカーの視点で検証します。果たして、公明党は本当に「不要」だったのか、それとも「不可欠」な存在だったのか。その実像に迫ります。
1. 安倍政権における「議席数」のファクトチェック
まず、「不要論」の根拠として頻繁に挙げられるのが、安倍晋三元首相が圧倒的な支持を誇った時期の議席数です。2012年の政権奪還以降、自民党は衆議院で単独過半数を大きく上回る議席を確保し続けました。
単独で政権運営は可能だったのか?
数値だけを見れば、自民党単独で法案を通過させるための「過半数」は維持できていました。しかし、憲法改正や重要法案の採決において必要となる「衆議院の3分の2以上の勢力」を維持するためには、公明党の議席が不可欠でした。また、参議院においては自民党が単独過半数を割り込む時期もあり、公明党との協力なしには安定した国会運営は不可能だったのが実態です。
2. 「選挙協力」という名の生命線:600万票の行方
自民党が公明党を「不要」と言えない最大の理由は、政策以上に「選挙における集票力」にあります。これが、ファクトチェックにおいて最も重要なポイントです。
小選挙区制における公明党票の重み
衆議院選挙の小選挙区において、自民党候補の多くは数千票から2万票程度の僅差で勝利しています。公明党の支持母体である創価学会の票(全国で約600万〜700万票と言われる)が自民党候補に流れることで、接戦区での勝利が確定する構造になっています。2025年に行われた直近の国政選挙においても、公明党の推薦が得られなかった自民党候補が苦戦を強いられた例は枚挙にいとまがありません。
「公明党がいなければ、自民党は単独過半数どころか、政権を維持することすら危うい」というのが、多くの選挙アナリストの一致した見解です。安倍元首相自身も、リアリストとしてこの選挙の実態を熟知しており、公明党との関係を戦略的に維持していました。
3. 政策における「ブレーキ」と「接着剤」の役割
「公明党は自民党の足を引っ張っている」という批判も多く見られます。特に安全保障政策や平和憲法に関する議論において、公明党は常に「平和の党」としての独自性を強調してきました。
安倍政権下での安保法制と公明党
2015年の平和安全法制(安保法制)の際、公明党は自民党のタカ派的な主張を抑制し、平和憲法の枠内に収めるための「憲法9条の規範性」を維持する役割を果たしました。これを「ブレーキ」と捉えるか、「政権の暴走を防ぐバランサー」と捉えるかで評価は分かれますが、「公明党の合意があったからこそ、世論の反発を一定層で抑え、法案を成立させることができた」という側面は無視できません。
2026年現在の政策協力状況
2026年現在、防衛費の大幅増や少子化対策、エネルギー政策においても、両党の意見調整は難航を極めています。しかし、公明党が連立にいることで、中道層や福祉重視の層の支持を一定程度繋ぎ止めている事実は、自民党にとって大きな政治的資産となっています。
4. なぜ「不要論」が絶えないのか?
では、なぜこれほどまでに「公明党不要論」が叫ばれるのでしょうか。そこには3つの大きな要因があります。
- 保守層の不満: 自民党内の岩盤保守層にとって、憲法改正や皇室典範改正などを慎重に進めようとする公明党は「邪魔な存在」と映ります。
- 宗教と政治の問題: 近年、旧統一教会の問題が表面化した際、宗教団体を支持母体とする公明党への風当たりも強まりました。
- 維新の会の台頭: 大阪などを中心に日本維新の会が勢力を拡大し、「自維」での協力が可能なのではないかという期待が、不要論を後押ししました。
しかし、2025年〜2026年の政治動向を見ても、維新と自民の関係は必ずしも安定しておらず、信頼関係の歴史がある公明党を切り捨てるリスクを自民党執行部は冒せていないのが現状です。
5. 結論:公明党は「実質、要らない状態」だったのか?
ファクトチェックの結果、結論は以下の通りとなります。
【結論:NO(不要ではなかった)】
安倍政権時代から現在に至るまで、自民党が公明党を「実質的に不要」として切り捨てられなかったのは、以下の3点が不可欠だったからです。
- 選挙での致命的な敗北回避: 公明党票を失えば、自民党の小選挙区当選者の3割〜4割が落選の危機に瀕する。
- 参議院の安定: 単独過半数を維持できない参議院において、公明党との協力は法案成立の絶対条件。
- 政策のクッション材: 強硬な政策に対する世論の反発を和らげる役割。
もちろん、「心情的に不要だ」と考える議員や有権者は一定数存在しますが、「政権を維持し、実際に統治を行う」という実利の面では、公明党は依然として自民党にとっての「生命維持装置」に近い役割を果たしていると言えます。
まとめ:2026年以降の展望
2026年に入り、自公連立も新たな局面を迎えています。支持母体の高齢化による公明党の集票力低下や、自民党内の世代交代により、両党の関係性はかつてないほど揺らいでいます。しかし、現時点の選挙制度(小選挙区比例代表並立制)が変わらない限り、両党の「不条理な共生関係」は、互いの生き残りをかけて継続していく可能性が高いでしょう。
「不要論」はあくまで理想論や感情論に近く、現実の政治工学においては「必要悪、あるいは運命共同体」というのが、最も正確なファクトと言えるのではないでしょうか。



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