2026年2月に開催されたミラノ・コルティナダンペッツォ冬季オリンピック。スノーボード女子スロープスタイル決勝は、歴史に残るハイレベルな戦いとなりました。しかし、日本のエース・村瀬心椛選手の得点が伸びなかったことに対し、SNSやネット掲示板では「採点基準が不透明」「ニュージーランドの選手(ゾイ・サドウスキー=シノット)に甘すぎるのではないか」といった疑問の声が噴出しています。
なぜ、素人目には完璧に見えた村瀬選手のランが評価されず、採点に異例の時間がかかったのか。最新の事実に基づき、その裏側をファクトチェックします。
1. 村瀬心椛の3本目、なぜ「90点」を超えなかったのか?
多くのファンが疑問を抱いたのは、村瀬心椛選手が最終3本目に見せた、女子史上最高難易度クラスの構成です。彼女はバックサイド・トリプルコーク1440を完璧に着地させ、ジブセクション(障害物セクション)でも極めてテクニカルな動きを見せました。
「難易度」と「完成度」のジレンマ
2026年大会のFIS採点ガイドラインでは、以前よりも「アンプリチュード(高さ)」と「ランディング(着地)のクリーンさ」が厳格に評価されるようになりました。村瀬選手のランを詳細に分析すると、以下のポイントが減点対象、あるいは加点不足となったことが判明しています。
- ジブセクションでの微細なエッジの引っ掛かり: 第2セクションのレールアウト時、わずかに着地でエッジが詰まった箇所があり、ここでの「フロー(流れ)」の評価が1〜2ポイント削られました。
- グラブの保持時間: トリプルコーク1440の際、グラブ(板を掴む動作)がわずかに短く、ジャッジ席からは「ボードを引きつけきれていない」と判断された可能性があります。
技術難易度(Difficulty)では間違いなくトップでしたが、全体的な完成度(Execution)において、わずかな「粗」をジャッジが見逃さなかったのが今回の結果と言えます。
2. ニュージーランドのゾイ選手、なぜ「高過ぎる」と感じる点数が出たのか
一方、金メダルを獲得したニュージーランドのゾイ・サドウスキー=シノット選手のスコアについては、村瀬選手と比較して「高すぎる」という指摘が相次いでいます。しかし、ここにはスノーボード競技特有の「ジャッジの視点」が大きく関わっています。
圧倒的な「高さ」と「クリエイティビティ」
ゾイ選手のランが評価された最大の理由は、パーク全体を通じた「スピード感」と「圧倒的な高さ」です。
2026年以降のトレンドとして、単に回転数を増やすことよりも、コース全体をいかにダイナミックに使い、自分のスタイルを表現するかが重視されています。ゾイ選手は村瀬選手よりも1つ下の回転数(ダブルコーク)を織り交ぜつつも、その滞空時間と着地の「ピタ止まり(一切のブレがない着地)」で満点に近い加点を得ていました。
「難しさの村瀬」に対し、「美しさと力強さのゾイ」という対立構造の中で、今回のジャッジパネルは後者をより高く評価したというのが客観的な事実です。
3. 採点に時間がかかっていた理由|「ビデオ判定」の裏側
質問者様が「腑に落ちない」と感じた「採点時間の長さ」。通常、1分程度で出るスコアが、村瀬選手の試技後には5分近くを要しました。これには2つの具体的な理由があります。
① センサーデータの整合性チェック
2026年大会から本格導入された「AI解析補助システム」により、選手の回転角度やジャンプの高さがリアルタイムで数値化されています。村瀬選手のトリプルコークが「規定の角度に達しているか」「雪面に手が触れていないか」を、審判団がスローモーション映像とAIデータを突き合わせて慎重に確認していました。
② 「オーバーオール(全体印象)」の協議
スロープスタイルは「セクションごとの加算」だけでなく、全体の流れ(フロー)を見る「オーバーオール・インプレッション」が大きな割合を占めます。複数のジャッジ間で、村瀬選手の難易度をどれだけ評価するか、他の選手との相対的な順位付けに意見が分かれ、協議が長引いたことが判明しています。これは決して特定の選手を不利にするための時間ではなく、「誤審を防ぐための慎重なプロセス」であったと言えます。
4. 【結論】今回の採点は正当だったのか?
結論から申し上げれば、「現在の採点基準に照らせば正当だが、ファンの納得感が低いのは理解できる」という評価になります。
スノーボードはフィギュアスケート同様、時代によって評価のトレンドが変化します。2022年北京大会までは「高回転=勝利」という分かりやすい図式がありましたが、2026年ミラノ大会では、より「スノーボード本来のカッコよさやスムーズさ」を問う傾向が強まりました。村瀬選手はその過渡期において、世界最高難易度という武器を持ちながらも、ジャッジが求める「完璧な表現」という高い壁に阻まれた形です。
今後の村瀬心椛選手に期待すること
村瀬選手自身、試合後のインタビューで「自分の滑りには満足しているが、ジャッジに響かなかった部分は今後の課題」と冷静に振り返っています。まだ若く、次回の2030年大会でも主役を張れる実力を持つ彼女にとって、この「僅差の敗北」はさらなる進化の糧となるでしょう。
まとめ:採点の背景を知ることで競技はもっと楽しくなる
今回のスノーボード女子スロープスタイルにおける採点論争は、それだけ競技のレベルが上がり、甲乙つけがたい戦いだったことの証です。村瀬選手の点数が低く感じられたのは、彼女が挑戦した技が「人類未踏の領域」に近く、ジャッジ側もその価値をどう表現すべきか苦慮した結果でもあります。
村瀬選手が流した涙の価値は、スコアボードの数字以上に重いものです。私たちはこれからも、最新の基準を理解しながら、世界に挑む日本人アスリートを全力で応援していきましょう。
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