2026年2月19日、ミラノ・コルティナダンペッツォ冬季五輪も佳境を迎えています。先日行われたスノーボード女子スロープスタイル決勝、日本代表の村瀬心椛(むらせ・ここも)選手のパフォーマンスは、多くの視聴者に感動を与えました。しかし、結果としてスコアが伸び悩み、メダルに届かなかったことに対して「なぜ?」「あんなにクルクル回っていたのに」という疑問の声が上がっています。
プロのファクトチェッカーの視点から、今回の採点結果の背景にある「ジャッジ基準の進化」と、「村瀬選手のランに含まれていた細かな減点要素」を詳しく解説します。素人目には完璧に見えても、プロの審判が見ているポイントは別のところにありました。
視聴者が最も注目するのは、ジャンプセクションでの「回転数」です。しかし、スロープスタイルのスコアは、主に以下の5つの要素(Overall Impression)で構成されています。
今回の村瀬選手のランを振り返ると、ジャンプでの回転数はトップクラスでしたが、「Execution(遂行度)」と「Variety(多様性)」において、上位陣と比較してわずかな差が生まれていました。
スノーボードにおいて、単に回るだけでは高得点は望めません。重要視されるのは「いつ、どこを、どれだけ長く掴んでいたか」です。
村瀬選手はバックサイド1260などの高難度技を繰り出しましたが、スロー映像で確認すると、グラブがわずかに短かった(ピークを過ぎる前に離してしまった)シーンや、板をしっかりと引き寄せきれていない場面がありました。これに対し、金メダルを獲得したゾイ・サドウスキー=シノット選手らは、回転のピークで板のど真ん中をガッチリと掴み続け、スタイルを強調していました。
また、着地時に一見耐えたように見えても、「雪面に手がわずかに触れる(ハンドドレッジ)」だけで、現代のジャッジは厳しく減点します。村瀬選手の2本目のランでは、着地時に重心がわずかに後ろに残り、手をつきそうになる「こらえ」がありました。これが「クリーンな着地(ストンプ)」と判断されず、スコアを押し下げる要因となりました。
スロープスタイルは、ジャンプだけでなくコース上部にあるレールやボックスを使った「ジブセクション」も重要です。実は、今回の村瀬選手の得点が伸びなかった大きな理由は、このジブセクションの評価にあります。
上位に入った選手たちは、レールの乗り方において、以下のような「高難度な見せ場」を作っていました。
村瀬選手はジャンプセクションでの逆転を狙う戦略だったためか、ジブセクションでは比較的ミスを避ける安全なラインを選択していました。「ジャンプは100点に近いが、ジブが80点台」という構成になり、トータルスコアでジブも完璧にこなした選手に競り負けた形です。
近年の国際大会(X GamesやFIS W杯)から顕著になっている傾向ですが、現在のジャッジは「同じルーティンの繰り返し」を嫌い、「その選手にしかできないライン」を高く評価します。
村瀬選手の構成は非常にハイレベルで安定的ですが、悪く言えば「教科書通り」な側面があります。一方で、今回表彰台に上がった若手選手やライバルたちは、コースの壁を使った特殊な当て込みや、予測不能な軸の入れ方をミックスしていました。この「Progression(革新性)」の項目で、ジャッジの印象に差がついた可能性があります。
村瀬心椛選手が「クルクル回っていた」のは事実であり、その技術力は世界最高峰であることに疑いようはありません。しかし、スロープスタイルという「総合芸術」においては、ジャンプの回転数以外の部分(ジブの精度、グラブの完遂、着地のクリーンさ)が、コンマ数点の差として現れてしまいました。
今後の展望:
五輪日程はまだ続きます。村瀬選手の最大の武器である「高回転」が最も純粋に評価されるのは、次に行われる「ビッグエア」です。スロープスタイルでの悔しさをバネに、ビッグエアではさらに回転数を上げた「1440」や、女子初となる異次元の技を繰り出してくれることが期待されます。
私たちは彼女の「回転」の凄さだけでなく、その裏にある「着地の美しさ」や「グラブのこだわり」に注目して応援しましょう!
2026年2月9日(現地時間)…