2026年2月に行われたミラノ・コルティナダンペッツォ冬季五輪。男子モーグル決勝において、日本のエース・堀島行真選手が人類史上初となる五輪舞台での「1440(4回転)」を成功させました。しかし、結果は惜しくも銅メダル。タイムも早く、難易度も上げたのになぜ予選より点数が低いのか、そしてなぜ3位なのか。多くのファンが抱く疑問を、最新のルールとジャッジスコアから紐解きます。
まず、モーグルの得点配分を正確に理解する必要があります。モーグルは以下の3要素の合計(100点満点)で競われます。
ここで重要なのは、ターンの配分が全体の6割を占めているという点です。どんなに素晴らしいジャンプを決めても、ターンの質が低ければ逆転は不可能です。堀島選手が「4回転」という超高難度の技(エアー)を成功させたとしても、それは20点満点の中での「難易度加点」に寄与するものであり、全体のスコアを決定づけるのは依然としてターンの完成度なのです。
質問者様が感じた「予選より難易度とスピードを上げたのに、点数が低い」という現象。これこそがモーグルの恐ろしさであり、今回の決勝で見られた現象の核心です。
スピードを上げれば上げるほど、コブからの衝撃は強くなります。堀島選手は決勝で最速タイムを狙うアグレッシブな滑りを見せましたが、その分、膝による衝撃吸収(アブソープション)において、予選時よりも上体の微細な揺れが生じていました。ジャッジは「スキーがフォールライン(直滑降のライン)からどれだけ外れないか」「上体が静止しているか」を厳格にチェックします。スピードを求めた結果、ターンの正確性がわずかに犠牲になったのです。
4回転(1440)という超大技は、着地時の衝撃が凄まじいものになります。堀島選手は見事に着地しましたが、その直後の1〜2ターンのエッジの食い込みが、予選時の3回転(1080)の時よりも深くなり、スムーズなターンの流れをわずかに欠いていました。ここでの「減点項目」が、大技による「難易度加点」を相殺してしまったと考えられます。
今回、金メダルを獲得したミカエル・キングズベリー選手(カナダ)、銀メダルのウォルター・ウォルバーグ選手(スウェーデン)との比較から、その差を分析します。
キングズベリー選手は、堀島選手のような4回転は行いませんでした。しかし、彼の強みは「マシンのようなターンの正確性」です。
どんなスピード域でも膝が一切割れず、ストックワークも左右対称。特に今回のミラノのコースは後半のコブが不規則でしたが、彼は予選から決勝までほぼ同じラインをミリ単位の狂いなく通しました。ターン点において、堀島選手を1.5点〜2点上回ったことが最大の要因です。
ウォルバーグ選手は、堀島選手に近いスピードを持ちながら、エアーの着地からターンへの接続が今大会で最もスムーズでした。堀島選手が「4回転で攻めた」のに対し、ウォルバーグ選手は「自分ができる最高難度の構成を100%の完成度で出し切った」形です。モーグルでは「難易度を上げて80%の出来」よりも「難易度を抑えて100%の出来」の方が高く評価される傾向にあります。
モーグルの採点は加点方式ではなく、基本的には「理想の滑りからの減点方式」です。
堀島選手の4回転は「エアーの得点」においては最高レベルの評価(Dスコア:難易度点)を得ましたが、その難易度ゆえに「空中姿勢」や「着地の安定感」において微細な減点が積み重なりました。
対して上位2名は、難易度では堀島選手を下回っていても、姿勢の美しさ(Eスコア:実施点)でほぼ満点に近い数字を叩き出しました。
「タイムが早い = 良い」だけでなく、「そのタイムを出している時のフォームがどれだけ完璧か」が問われるのが、モーグルという競技の特殊性なのです。
スコア上は3位という結果でしたが、堀島選手が五輪の舞台で4回転を成功させたことは、モーグル界にとって歴史的な転換点となりました。
これまでは「ミスのない滑り」が勝つ時代でしたが、堀島選手の挑戦により、今後は「超高難度かつミスのない滑り」が求められる異次元の時代へと突入します。
今回の銅メダルは、技術的には「ターンの安定性」という課題を残したものの、「世界の誰も到達していない領域に足を踏み入れた」証でもあります。点数には表れにくいですが、競技の限界を押し上げた彼の挑戦は、金メダル以上の価値があると言っても過言ではありません。
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