2026年現在、人類の宇宙探査技術はアルテミス計画の進展や次世代推進システムの開発により、かつてないほど高い関心を集めています。空想科学の世界ではおなじみの「光速に近い速度で進む宇宙船」ですが、そこで素朴な疑問が浮かびます。
「光速の99.9999…%で進む船内で、進行方向に歩いたら光速を超えてしまうのではないか?」
ニュートン物理学的な感覚では「船の速度 + 歩行速度」で光速を突破しそうに思えますが、アインシュタインの特殊相対性理論はこの疑問に鮮やかな回答を用意しています。本記事では、プロのファクトチェッカーとして、物理学の基本原則に基づき、なぜ光速を超えられないのか、そして船内では何が起きているのかを詳しく解説します。
私たちが日常生活で経験する速度の加算は、単純な足し算です。時速100kmで走る電車のなかで、進行方向に時速5kmで歩けば、地面にいる人から見たあなたの速度は時速105kmになります。これを「ガリレイ変換」と呼びます。
しかし、速度が光速(秒速約30万km)に近づくと、この単純な足し算は通用しなくなります。特殊相対性理論において、速度の合成には以下の式が使われます。
V = (v1 + v2) / (1 + v1 * v2 / c²)
この式に当てはめると、v1やv2がどれほど光速に近くても、計算結果であるVが光速(c)を超えることは絶対にありません。分母にある「1 + v1 * v2 / c²」という項がブレーキの役割を果たし、速度が上がるほど足し算の結果を押し下げるからです。
質問者様が推測された通り、光速を超えないようにするために、外部の観測者からは「時間」と「空間」が歪んで見えます。これが相対性理論の真骨頂である「時間の遅れ」と「長さの収縮」です。
光速に近い宇宙船を外から観察すると、船内の時間は驚くほどゆっくり進んでいるように見えます。船内の人が「一歩」踏み出す動作も、外の観測者から見ればスローモーションのように見えます。つまり、船内の人が時速数キロで歩いているつもりでも、外から見ればその歩行速度は極めてゼロに近い微々たる加算にしかならないのです。
また、船外の観測者から見ると、進行方向に対して宇宙船そのものが縮んで見えます。船内の空間が縮んでいるため、歩いている距離そのものも外からは短く見積もられます。これらの現象が組み合わさることで、外部から見た合成速度は決して光速を超えないよう「調整」されるのです。
では、船内にいる本人にとってはどう感じられるのでしょうか?結論から言えば、船内の人は全く違和感なく、普通に進行方向に歩くことができます。
特殊相対性理論の第一の柱は「相対性原理」です。これは「等速直線運動をしているあらゆる慣性系において、物理法則は同じように成り立つ」というものです。船内の人にとっては、自分の船が時速100kmだろうが光速の99.99%だろうが、加速さえしていなければ(等速であれば)、静止している部屋の中にいるのと全く同じ感覚です。
船内の人から見れば:
このように、船内の視点では「光速に近づいている」という実感すらありません。むしろ、「外の世界(地球など)が猛烈なスピードで自分たちを追い越していき、地球側の空間が縮んで見える」という逆の現象を観測することになります。
2026年現在においても、質量を持つ物体が光速に到達、あるいは超過することは不可能であるというのが科学界の定説です。これには「エネルギー」の問題も関係しています。
物体が光速に近づくほど、その物体の「相対論的質量(動的質量)」は増加していきます。光速の99.9999…%まで加速するためには、宇宙に存在する全エネルギーを注ぎ込んでも足りないほどの膨大なエネルギーが必要になります。そして、光速そのものに到達するには無限のエネルギーが必要となるため、質量がある人間や宇宙船が光速に達することはありません。
最新の量子力学や宇宙論の研究(ワープ航法を実現するための「アルクビエレ・ドライブ」の理論研究など)は続いていますが、これらは「空間自体を歪ませる」ことで実質的な移動速度を稼ぐアイデアであり、今回のような「空間内での移動速度」において光速を超えるものではありません。
質問への回答をまとめると、以下のようになります。
アインシュタインが導き出したこの理論は、GPS衛星の時刻補正など、現代社会のインフラにも不可欠な実証済みの事実です。直感に反する不思議な世界ですが、宇宙は「光の速さ」という絶対的な制限を守るために、時間や空間の方を柔軟に変化させているのです。
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※本記事は2026年2月現在の物理学的知見に基づき執筆されました。