犬のてんかん治療において、単剤でのコントロールが困難な場合に選択される「ゾニサミド(商品名:コンセーブ等)」と「フェノバルビタール(商品名:フェノバール等)」の併用療法。2026年現在、獣医学の進歩により、より安全で効果的な管理プロトコルが確立されています。
しかし、これら2つの薬を併用する際には、「薬物相互作用」による血中濃度の低下や、肝臓への負担増大という、飼い主様が必ず知っておくべき重要な注意点があります。本記事では、プロの視点から最新の知見に基づいた管理方法を詳しく解説します。
犬の特発性てんかんの約20〜30%は、1種類の薬(単剤)では発作を十分に抑制できない「難治性てんかん」と言われています。このような場合、作用機序の異なる薬を組み合わせる「多剤併用療法」が行われます。
これらを併用することで、相乗効果(シナジー)を狙い、発作の回数や重症度を軽減させるのが目的です。
2026年現在の獣医学においても、この2剤併用で最も留意すべきは「フェノバルビタールによる代謝酵素の誘導」です。
フェノバルビタールには、肝臓の薬物代謝酵素(チトクロームP450)を活性化させる働きがあります。ゾニサミドもこの酵素によって分解されるため、フェノバルビタールを併用している犬では、ゾニサミドの代謝スピードが極めて速くなります。
【重要】 ゾニサミド単剤使用時に比べ、フェノバルビタール併用時にはゾニサミドの半減期(血中濃度が半分になる時間)が大幅に短縮されることが分かっています。そのため、併用時はゾニサミドの投与量を増やす、あるいは投与回数を調整するなどの精密な設計が必要です。
血中濃度モニタリング(TDM: Therapeutic Drug Monitoring)は、併用療法において「安全な範囲で、かつ効果が出る濃度」を維持するために不可欠です。
2026年のガイドラインでは、以下のタイミングでのTDMが推奨されています。
フェノバルビタールは肝臓で代謝されるため、長期服用や高用量の服用は肝臓への負担となります。特にゾニサミドとの併用時は、より慎重なモニタリングが求められます。
1. ALP(アルカリフォスファターゼ):
フェノバルビタールを服用している犬の多くでALP値が上昇します。これは「酵素誘導」によるもので、必ずしも肝細胞の破壊を意味するわけではありません。しかし、他の数値と併せて判断する必要があります。
2. ALT(GPT)およびAST(GOT):
これらが著しく上昇している場合は、肝細胞がダメージを受けている可能性があります。ALPの上昇よりも緊急性が高いサインです。
3. アルブミン、総ビリルビン、アンモニア、血中胆汁酸(TBA):
これらは肝臓の「機能」を反映する数値です。これらの項目に異常が出た場合は、薬の減量や変更、あるいは肝保護剤の追加検討が必要です。
近年では、薬害性肝障害を未然に防ぐため、シルマリン(マリアアザミ抽出物)やSAMe(S-アデノシルメチオニン)などの高純度サプリメントを、治療初期から併用するケースが増えています。また、肝臓の解毒代謝を助けるために、適切なタンパク質制限や抗酸化物質の摂取も推奨されます。
病院での検査だけでなく、自宅での観察が愛犬の命を守ります。以下の症状に気づいたら、すぐに主治医に相談してください。
多くの場合、てんかん薬は一生涯の管理が必要になります。自己判断で急に薬を止めると、「てんかん重積状態」という命に関わる激しい発作を引き起こす恐れがあります。減量を検討する場合は、必ず獣医師の指導の下、数ヶ月かけて徐々に行います。
他の疾患で薬を処方される際、抗生物質(クロラムフェニコールなど)や胃薬(シメチジンなど)は、てんかん薬の代謝を阻害し、毒性を高めることがあります。他の病院にかかる際は、必ず現在飲んでいる薬の内容を伝えてください。
2026年現在、犬のてんかん治療は「発作ゼロ」を目指すだけでなく、「薬の副作用を最小限に抑え、愛犬が元気に過ごせる時間を最大化する」ことに重点が置かれています。
ゾニサミドとフェノバルビタールの併用は非常に強力な武器になりますが、「定期的なTDM(血中濃度測定)」と「肝機能チェック」がその安全性を担保します。主治医と密に連携し、愛犬に最適な「オーダーメイドの投薬設計」を続けていきましょう。
※本記事は2026年2月9日時点の情報に基づいています。個別の症例については必ず信頼できる獣医師にご相談ください。