2025年オフシーズンに再燃か?MLBロックアウトの懸念と労使の争点

2022年シーズン開幕前に発生したMLBのロックアウトは、労使協定(CBA)の締結によって回避されましたが、その協定は2026年12月1日をもって失効します。この期限を目前に控える2025年のオフシーズンは、再びメジャーリーグの労使関係が極度に緊張する時期となることが予想されます。前回の交渉で根本的な解決に至らなかった多くの構造的な問題が、再度オーナー側と選手会(MLBPA)の間で激しく議論されることになるでしょう。特に、選手の経済的な権利と、リーグ全体の競争均衡に関する問題は、依然としてMLBのビジネスモデルの核心を揺るがすテーマとして残っています。ファンにとって最悪のシナリオであるロックアウトを回避できるかどうかは、この2025年オフシーズンにおける両者の交渉の行方にかかっています。本記事では、次期労使交渉で焦点となる主要な争点を予測し、なぜロックアウトの懸念が再び高まっているのか、その背景を深く考察していきます。

次期CBA交渉の最大の焦点:FA権取得期間の短縮

2025年オフシーズンの次期労使協定交渉における最大の焦点は、前回交渉でも最後まで争われたフリーエージェント(FA)権取得期間の短縮になる可能性が非常に高いです。現行の制度では、選手はメジャーリーグ登録からサービスタイム6年でFA権を取得します。選手会は、選手のキャリアの最も脂の乗った時期を球団が安価にコントロールしすぎていると主張しており、この期間を5年などへと短縮することを強く要求すると見られています。サービスタイムの短縮は、選手がより早い段階で市場の評価に基づいた適正な年俸を得られるようになることを意味し、選手の経済的な自由を大きく拡大する要求です。
これに対し、オーナー側は選手の保有権を短縮することには極めて消極的な姿勢を示すでしょう。若手や中堅選手の保有期間が短くなれば、球団の戦力構築の計画性が損なわれる上、全体的な人件費が高騰することを強く懸念しているためです。前回交渉では、このサービスタイム短縮要求は実現しませんでしたが、選手会にとってこれは譲れない重要事項として再浮上することは確実です。交渉が難航した場合、この一点がロックアウトに発展する最大の引き金となる可能性があります。サービスタイムの議論は、単に契約期間の問題に留まらず、選手の労働市場における力のバランスを根本から変える要求であるため、両者の意見の溝は深く、妥協点を見つけるのが極めて困難になると予測されます。

若手選手の更なる待遇改善とサラリーキャップ導入の可能性

前回の交渉で最低保証年俸の引き上げや若手向けボーナスプールが導入されたにもかかわらず、選手会は依然として若手選手の待遇改善を重要な争点として掲げ続けるでしょう。ボーナスプールの規模拡大や、年俸調停権を得るまでの期間のさらなる早期化などが要求される可能性があります。若手選手がチームの勝利に大きく貢献しているにもかかわらず、その対価が相対的に低い現状を変えたいという選手会の意志は固いです。
一方、オーナー側は、人件費の高騰を抑えるための対策として、サラリーキャップ(年俸総額の上限)の導入を非公式に、あるいは交渉カードとして強く示唆する可能性があります。サラリーキャップは、選手の年俸総額を制限することで、球団経営の予測可能性を高め、全チームの競争均衡を促すという名目ですが、選手会はこれを年俸の上限を設定し、選手の収入を制限するものとして強く拒否します。MLBの歴史上、サラリーキャップの導入は常に労使対立の最大の原因となってきました。オーナー側がこの提案を真剣に押し通そうとすれば、選手会は徹底抗戦の構えを取り、ロックアウトは避けられない事態となるでしょう。この「サラリーキャップ対サラリーフロア(最低年俸総額)」の構図も、2025年オフの交渉の核心部分となることが予想されます。

競争均衡税(CBT)の再度の見直しと「意図的な低迷」への対策

現行の労使協定で基準額が引き上げられた競争均衡税(CBT、通称:贅沢税)ですが、次期交渉でもその見直しは避けられません。選手会は、依然としてCBTの基準額が低いために、一部の裕福な球団が「税金を払ってでも戦力強化する」ことを避けたり、逆に多くの球団が「CBTラインを上限」として年俸支出を抑制したりする傾向が続いていると主張するでしょう。これにより、リーグ全体の競争意欲が損なわれているという認識は変わっていません。
選手会は、CBT基準額のさらなる大幅な引き上げ、またはCBTを回避するために意図的に戦力補強を怠る球団へのペナルティの強化を求める可能性があります。「タンク(Tanking)」と呼ばれる、勝利を放棄して将来のドラフト指名権のために低迷する戦略を是正するための経済的な強制力が必要です。例えば、一定の期間でCBTライン以下の年俸総額しか支出していない球団に対して、ドラフト指名順位の繰り下げや国際ボーナスの制限といった、非金銭的なペナルティを課す案が議論のテーブルに乗るかもしれません。オーナー側は、CBTはリーグの安定に寄与していると主張しますが、選手会は、競争の公平性を担保するために、より厳しい措置が必要だと訴えることで、再び交渉は難航することが予想されます。

デジタル技術とデータ分析がもたらす新たな報酬体系の議論

近年、MLBではトラッキング技術やデータ分析が急速に進化し、選手のパフォーマンス評価がより複雑かつ精緻になっています。この技術革新は、次期労使交渉において新たな報酬体系の議論を引き起こす可能性があります。具体的には、選手の活躍をデータに基づいて評価し、インセンティブ報酬として分配する仕組みの導入です。例えば、投球の速度、打球の初速、守備での効率性など、従来の成績表には表れにくい高度なデータに基づいたボーナス制度などが検討されるかもしれません。
また、MLB機構の収益において、デジタルプラットフォームからの収益の割合が年々増加しており、選手会はこの新たな収益源からの分配率の見直しを要求するでしょう。野球ゲームやリーグのストリーミング配信など、デジタルコンテンツの価値向上に選手の肖像権やプレーが大きく貢献しているという認識に基づき、収益分配の透明性と公平性の向上を求めます。これらの技術的・デジタルな側面は、従来の「年俸」という枠を超えた報酬体系の議論を促し、交渉をさらに複雑化させる要因となり得ます。選手会は、現代の野球ビジネスが生み出す全ての収益から、選手が適切な分け前を得ることを強く主張し、この点でもオーナー側との対立が深まる可能性があります。

まとめ:2026年失効前の2025年オフは「危機」の時期

現行の労使協定が2026年12月1日に失効することを踏まえると、その前年である2025年のオフシーズンは、MLBにとって極めて重要な「危機」の時期となります。この交渉の核心にあるのは、前回ロックアウトの原因となったFA権取得期間の短縮、若手選手の待遇改善、そして競争均衡税(CBT)をめぐる競争の公平性の問題の三点です。選手会は、選手の労働価値と報酬が適切に連動する、より公平な経済システムを求めて徹底的に交渉に臨むでしょう。
一方、オーナー側は、コスト管理と球団経営の安定性を優先し、選手会が求める大幅な制度変更には難色を示すことが予想されます。特に、サービスタイムの短縮やサラリーキャップの導入といった、野球ビジネスの根幹に関わる要求がぶつかり合った場合、交渉は膠着し、再びロックアウトという最悪のシナリオに陥る可能性は否定できません。両者が建設的な妥協点を見出し、失効期限までに新協定を締結できるかどうか。2025年オフのMLBは、ファンと関係者全員が固唾をのんで見守る、歴史的な交渉の舞台となるでしょう。

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