トロント・ブルージェイズの本拠地である「ロジャースセンター」という名前を聞くと、多くの日本の野球ファンは「なぜ球場なのに“センター”なのか」と疑問を持つかもしれません。
日本では「東京ドーム」「甲子園球場」「PayPayドーム」など、「ドーム」や「球場」という言葉が一般的です。
しかし、北米では「センター(Center)」という単語が施設名に使われることが珍しくありません。
実際、ロジャースセンターの命名には歴史的・商業的な背景が深く関わっています。
この記事では、その理由やアメリカ・カナダにおける球場命名の文化的違いについて詳しく解説していきます。
ロジャースセンターは、1989年に「スカイドーム(SkyDome)」として開場しました。
当時、世界初の開閉式屋根を備えた近代的な球場として注目され、トロント市民の誇りとも言える存在でした。
しかし、2005年に通信大手「ロジャース・コミュニケーションズ」が球場を買収し、名称を「ロジャースセンター」に変更しました。
この変更は、いわゆる「ネーミングライツ(命名権)」契約によるもので、企業がブランド認知を高める目的で施設名に自社名を冠するものです。
アメリカやカナダではこの手法が一般的で、野球場だけでなくフットボールやアイスホッケーのアリーナにも多く見られます。
ロジャースセンターもその一環であり、通信・メディア業界を代表する企業として、トロントの象徴的なスポーツ施設に自社のブランドを重ねた形です。
このように、「センター」という言葉自体が商業施設やイベント会場を指す一般的な英語表現であり、特に違和感なく受け入れられています。
北米では、「センター(Center)」という単語は「中心」や「複合施設」という意味で使われ、必ずしも野球専用の施設だけを指しません。
たとえば「コンベンションセンター」「コミュニティセンター」といった公共施設の名称でも広く使用されます。
スポーツにおいても、「ウェルズファーゴセンター」(フィラデルフィア)や「アムウェイセンター」(オーランド)など、NBAやNHLの本拠地として知られる会場の多くが「センター」を冠しています。
つまり、「センター」とは「人々が集まる多目的空間」というニュアンスを持っており、単なる球場名というよりも“都市のランドマーク”や“イベント複合施設”としての意味合いを強く持っています。
ロジャースセンターも野球以外にコンサートやイベント、展示会など多目的に利用されており、まさに“センター”という言葉がふさわしい存在なのです。
この文化的背景を理解すると、なぜ日本の球場と命名の方向性が異なるのかが見えてきます。
日本の球場名は、伝統的に「〜球場」「〜ドーム」といった形が一般的であり、これは野球専用施設としての明確な用途を示すためです。
たとえば「明治神宮野球場」や「横浜スタジアム」「東京ドーム」などは、その地域性や企業名を前に置くものの、施設の種類を示す語尾が必ず付いています。
一方、北米では球場やアリーナが「スポーツ以外の用途」にも積極的に使われるため、「センター」「フィールド」「パーク」など、多目的性を示す言葉が選ばれる傾向にあります。
特に「センター」は、野球だけでなく音楽やエンターテインメントを含む“文化拠点”の意味を持ちます。
また、ネーミングライツが盛んなアメリカでは、企業名+センターという構成が自然に受け入れられ、地域経済や企業ブランディングにも寄与しています。
日本ではまだ一部のドームやスタジアムでしか命名権が浸透していないため、英語的な「センター」という名称が馴染みにくく感じられるのです。
名称変更当初、トロント市民の間では「スカイドーム」の名を懐かしむ声も多くありました。
しかし20年近くが経過した現在、「ロジャースセンター」という名前は完全に定着しています。
ブルージェイズの試合だけでなく、カナダ最大級の音楽イベントや国際的なコンサートも開催され、年間を通じて多くの人々が訪れる都市の中心的スポットとなりました。
ロジャース・コミュニケーションズにとっても、この施設は企業ブランドの象徴であり、通信・メディアを通じて地域社会に還元する重要な存在となっています。
「センター」という言葉が示すように、そこはスポーツだけでなく文化・交流・情報の中心として機能しています。
名前に込められた意味を理解すると、単なる商業契約を超えた“都市文化の象徴”としての価値が浮かび上がります。
ロジャースセンターという名前は、単に企業スポンサーの影響によるものではなく、北米に根付く命名文化と多目的施設としての性格を反映しています。
アメリカやカナダでは「センター」は人が集い、文化やスポーツが交わる場所を意味する言葉として広く使われています。
それに対し、日本の「球場」や「ドーム」は、より専用的・機能的な意味を持つため、文化的に使い分けられているのです。
ブルージェイズの本拠地が「ロジャースセンター」と呼ばれるのは、トロントという国際都市の多面性と、企業・スポーツ・市民が一体となる文化的背景を象徴しているからと言えます。
日本の感覚からすると少し不思議に思えるかもしれませんが、北米ではそれが自然であり、むしろ誇りを持って受け入れられているのです。
「センター」という言葉の裏には、単なる球場以上の意味が込められているのです。