ドキュメンタリー映画『まったく同じ3人の他人(Three Identical Strangers)』は、1980年代にアメリカで起きた信じがたい実話を描いています。
同じ顔を持つ3人の若者が、19歳にして偶然の出会いから自分たちが三つ子であることを知るという衝撃の展開に始まり、メディアで一躍スターとなった彼らの裏に潜む、国家規模の実験の闇が暴かれていきます。
この映画の中で描かれる一連の出来事はすべて事実に基づいており、多くの観客に「これは本当にあったことなのか?」「本人たちが演じているのか?」という疑問を抱かせます。
本記事では、この映画がどこまで実話に基づいているのか、出演者は本人なのか、それとも再現俳優なのかという視点から深掘りし、実際に何が起きていたのかを詳しく解説していきます。
実在した三つ子の数奇な運命とその再会劇
1980年、ニューヨークの大学に入学したばかりの少年が、「君はボビー?」と声をかけられるところから物語は始まります。
声をかけた相手は、彼に見た目がそっくりだった亡き友人を思い出したからでした。
この誤解がきっかけとなり、彼の双子の兄弟が存在することが明らかになります。
さらに新聞に掲載されたその話題がきっかけとなり、3人目の兄弟も名乗り出て、三つ子であったことが判明します。
彼らの名前は、ロバート・シャフラン、エディ・ガラン、デビッド・ケルマン。
3人とも生まれてすぐに養子に出され、それぞれ別々の家庭で育てられていたのです。
しかも養子先は社会階層が異なる家庭に意図的に振り分けられていました。
この出来事が世間の大きな注目を集め、テレビ番組や雑誌に引っ張りだこになった3人の笑顔の裏に、ある壮大な社会実験が隠されていたのです。
出演者は誰か?本人たちは映画に登場しているのか
本作『まったく同じ3人の他人』は、フィクションではなく完全なドキュメンタリー映画です。
そのため、物語の主軸となる3人のうち、ロバート・シャフランとデビッド・ケルマンは本人としてインタビュー出演しています。
残念ながら、三男のエディ・ガランは2000年代に自ら命を絶ったため、生前の映像資料をもとに登場します。
映画の中には、当時のニュース映像やバラエティ番組の出演シーンが数多く使用されており、3人の若かりし頃の姿もそのまま映し出されています。
また、再現シーンには俳優が起用されていますが、彼らはあくまで補足的な演出であり、物語の中心は当事者たちの証言と記録映像です。
したがって、「本人たちが演じているのか?」という疑問に対する答えは、「基本的に本人たちが語っているが、一部再現には俳優が登場している」となります。
背後にあった闇:意図的な分離と心理実験の真相
物語が進むにつれて明らかになるのは、3人が別々の家庭に養子に出されたのは、ただの偶然ではなかったという事実です。
彼らを養子に出した養子斡旋機関は、ある研究機関と連携し、三つ子を意図的に分離して異なる環境で育て、成長の違いを追跡調査するという極めて非倫理的な心理学実験を行っていたのです。
それぞれの家庭には定期的に「発達調査」と称して心理学者が訪れ、子どもの行動や反応を記録していました。
しかし、養親たちはこの研究の存在や、兄弟がいることなどを一切知らされていなかったのです。
3人が再会した後も、その研究結果は長年にわたり公開されず、本人たちは調査対象として扱われていたことに深い怒りを覚えます。
この実験は「人間の本質は遺伝か環境か」というテーマを探るためのものでしたが、その過程で個人の人生が利用され、精神的な傷を負わせる結果となったことは否定できません。
観客が感じる衝撃と「人間とは何か?」という問い
この映画が世界中で多くの賞を受賞し、評価された理由のひとつは、単なる兄弟の感動再会物語では終わらないからです。
観客は次第に、喜劇的で感動的だった物語が、倫理や人権を問うシリアスな社会問題へと転換していく構成に衝撃を受けます。
映画が提示する核心的なテーマは、「人は遺伝で決まるのか、それとも環境か」「個人の自由意志とはどこまで信じられるものなのか」という問いです。
三つ子の3人は、再会後すぐに驚くほど似た性格や嗜好、動作を見せましたが、環境が違ったことで抱える内面や精神的課題には大きな差が出ていました。
この対比が、観客に「人間とは何によって形成されるのか?」という哲学的な思考を促します。
また、命を落とすまでに追い込まれたエディの悲劇は、自由や幸福が実験の対象にされることの危うさを私たちに訴えかけてきます。

まとめ:事実は小説よりも奇なりという衝撃
『まったく同じ3人の他人』は、本人たちが語り、事実に基づいて構成されたドキュメンタリー映画です。
出演しているのは実在のロバートとデビッドであり、過去の映像と再現ドラマを交えながら、実話を忠実に追いかけています。
彼らが経験した「出会い」「喜び」「疑問」「怒り」「喪失」は、私たちが生きるこの世界がいかに不条理であるかを浮き彫りにします。
そして、見終えた後に残るのは、「自分の人生が誰かの観察対象になっていたらどうだろう?」という、ゾッとするようなリアリティです。
フィクション以上のリアルな物語が、心に深く刻まれる1本。
興味を持った人にはぜひ見てほしい、そして「人の尊厳」について改めて考えるきっかけにしてほしい作品です。


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