近年、個人の過去の職歴や経歴がインターネット上で掘り起こされ、それが現在の職業生活に影響を及ぼすケースが増えています。
特に芸能界やインフルエンサー業界においては、かつての活動歴が話題となり、契約の解除や活動の制限といった問題が発生しています。
その中でも注目されたのが、麦野つむぎさんが所属グループICECREAM SCREAMから解雇された一件です。
解雇理由とされたのは、過去にアダルトビデオに出演していたという経歴でした。
現在真面目に芸能活動を行っていたにもかかわらず、過去の職歴を理由に現在の職を失うことは許されるのか。
本記事では「職業選択の自由」「職業差別」「過去の職歴と現在の評価」の3つの観点から、この問題を深掘りします。
職業選択の自由とは何か?憲法の保障と現実のギャップ
日本国憲法第22条第1項には、「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する」と明記されています。
これは国家が国民の職業を強制したり、不当に制限したりしてはならないという基本的人権の一つです。
アダルト業界で働くことも、法に触れない限り「自由に選べる職業」として憲法上は認められています。
つまり、過去にアダルト作品に出演していたというだけで、現在の職業活動を制限されることは本来あってはなりません。
しかし、実際には「イメージ」や「企業の社会的評価」を理由に契約解除や解雇に至るケースがあるのが現状です。
このような現実と法の理念との乖離こそ、今回の問題の根本にあります。
「アダルト=悪」なのか?社会的偏見と職業差別の実態
アダルト産業は合法かつ多くの需要が存在する立派な産業です。
一方で、未だに「恥ずかしい」「人に言えない仕事」としての偏見が根強く残っています。
この偏見が職業差別を生み、「アダルト経験者は一般の芸能活動にふさわしくない」という空気が形成されてしまうのです。
特に女性に対しては、性的な経歴が「人間性」や「価値」に直結するような評価がなされることが多く、男性よりも厳しい風当たりがあります。
本来、過去にどんな職に就いていたかではなく、今現在どう行動しているかが評価されるべきです。
アダルト業界にいたことを理由に他の職業への道が閉ざされるのであれば、それは明確な職業差別に他なりません。
法的観点から見た「過去の職業を理由とする解雇」の正当性
企業が従業員を解雇するには「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が求められます。
過去にアダルトビデオに出演していたという理由だけでは、それが業務遂行に具体的な支障をきたす証拠がない限り、解雇の正当性は認められにくいとされています。
芸能活動やパフォーマンスの場において、イメージ戦略やスポンサー契約の影響で解雇に至ることもありますが、それでも法的には「不当解雇」に該当する可能性があります。
ただし、芸能プロダクションなどは「専属契約」の名のもとに広い裁量を持っており、実際には訴訟などに至るケースはまれです。
本人のイメージや事務所の方針、ファンの反応などが複雑に絡み合うことで、法的判断が曖昧になりやすい領域でもあります。
なぜこのような差別が今なお続いているのか
根本的な理由は、「過去を許容しない社会の空気」にあります。
一度アダルトに関わった人に対して、過去を暴いて晒す風潮、そしてそれに便乗して炎上を煽るネット文化が蔓延しています。
さらに、企業や団体も「炎上リスクを回避する」ために、内部的な説明や配慮よりも「切り捨て」を選びがちです。
その背景には、炎上が収益に与える影響の大きさや、SNS拡散のスピード感があると言えるでしょう。
つまり、解雇や契約解除の根底には「法」よりも「空気」と「数字」が優先されてしまっているのです。
これこそが職業差別や人権侵害を生む構造的な問題と言えるでしょう。

まとめ:過去ではなく「今」を見て評価する社会へ
職業選択の自由は、すべての人に平等に保障されるべき基本的人権です。
過去にアダルトに出演していたことが、現在の真面目な活動や努力を否定する理由にはなりません。
社会が今後進むべきは、「過去がどうだったか」ではなく「今どう生きているか」で人を評価する方向です。
麦野つむぎさんの件は、私たちが「寛容な社会」を実現するうえで考えるべき象徴的な事例です。
過去の経歴を盾に人を排除するのではなく、その人が今どんな姿勢で社会と向き合っているかを正しく見る目こそが、これからの時代に求められる力ではないでしょうか。


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